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「医学英語」をめぐる諸問題
―医学書編集者の悩み―

J. Eguchi

17 July 2002


※ ふだんいろいろな方とお話していますと,意外に皆さんが「編集者」という職業の中身についてご存じないようですので,最初に私の仕事の内容をお話しましたが,本題とはあまり関係ありませんので,ここでは割愛します。

※ 医学英語にも問題がありますが,最近は「英語」ではなく「医学日本語」に起因する問題点も多々あるのではないかという気がしています。まだまだ私見のレベルですが,問題提起という形で話をさせていただきました。

 

1. JIS規格(ワープロ変換における字体)の問題

表 主要学会における使用漢字

第一の問題として,学会によって異なる漢字(字体)を用いている点が挙げられます。さらに第二の問題として,ワープロでは出力できない略字・新字を用いている学会もあります。手書きが中心だった時代ならいざ知らず,ワープロ入力・デジタル印刷の時代にはそぐわないのではないでしょうか。

 

2. 学会用語集の問題

(1)学会によって,異なる用語を用いているケースがあります。

[例1] 呼吸音の表記

英語 日本医学会 日本呼吸器学会 日本内科学会
crackles 記載なし 断続性ラ音 ばちばち音,水泡音
egophony やぎ声 やぎ音 やぎ声
rhonchus ラ音,水泡音 いびき音 ラ音,連続性ラ音
stridor 喘鳴 喘鳴 喘鳴
wheezes 喘鳴 笛様音 喘鳴

*呼吸音の表現はもともと主観的な要素が大きいので,それぞれに厳密な区別(客観的な基準)があるわけではないようですが,それでも学会ごとに微妙に異同があっては紛らわしくて困ります。

[例2] anginaの訳

anginaといえばangina pectoris(狭心症)が有名ですが,本来anginaは「激痛」を意味するラテン語なので,心疾患以外のanginaもあります。その場合,訳語は「アンギナ」とカナ書きになります。

angina pectoris → 狭心症 abdominal angina → 腹部アンギナ
unstable angina → 不安定狭心症 Ludwig angina → ルートヴィヒアンギナ
variant angina → 異型狭心症 Vincent angina → ヴァンサンアンギナ
Prinzmetal angina → プリンツメタル狭心症  

 

(2)一つの学会の中でも複数の表記が混在している場合があります。

[例] 頻脈? 頻拍?

 

知っていないと訳せない病名(英語名と対応していない病名)があります。

rheumatoid arthritis (RA) → 慢性関節リウマチ(×リウマチ様関節炎)
juvenile rheumatoid arthritis (JRA) → 若年性関節リウマチ(“慢性”が消える)
osteoarthritis (OA) → 骨関節症(×骨関節炎)

※ この類は他にも多数あると思います。

 

医学論文では,通常の日本語では用いない表現が多々用いられています。

※ これらは決して間違いというわけではありませんが,今後「開かれた医療」を本当に目指すのであれば,医師の言葉づかいそのものを変えてゆく必要があると思います。ただでさえ難解な内容を,わざわざわかりにくい日本語で言わなくてもよいでしょう。

以上,仕事の合間に考えていることを,とりとめもなく話させていただきました。これを機会に皆さんのご意見も聞かせていただければ幸いです。



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